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「“Something New”がなければ退化に等しい」青田英行(杏林堂薬局)

薬学生のための情報誌『MIL』ではこのたびドラッグストアの経営トップのインタビューをまとめた特別号「NEXT VISION」を発行しました。このwebサイトでも連動コンテンツをお届けします。

薬剤師とともに走り続ける情熱を持った経営者たちの言葉から、まなざしから、社会のなかでその企業が何を目指しているのか、メッセージを感じ取って欲しいと思います。



NEXT VISION

株式会社杏林堂薬局

代表取締役社長 青田英行


あおた・ひでゆき●1959年生まれ。京都薬科大学薬学部卒業後、病院薬剤部で研修。

その後、1982年に杏林堂薬局入社。店長、バイヤー、営業部、調剤事業部、人事部など、数々の部署を経験したのち、2000年に同社取締役に就任。2015年から現職。趣味はランニング。



 

“Something New”がなければ退化に等しい

現場起点の「変化」を期待



「社員を怒るなんて考えたこともありません」


意外な一言だった。

「社員を怒るなんて、考えたこともありません」。


静岡県浜松の地に創業し、地域に根ざして確実な業績を残してきた杏林堂薬局。一世紀以上の歴史を受け継いで社長に就任し、6年目を迎えた青田英行氏の言葉だ。

賛否両論はあるだろう。「時には叱ることで部下は成長する」と言う人もいるかもしれない。そんな一般論は承知の上で、さらっと本心を語る自然体が青田社長の魅力だ。


「現場に裁量を与える」という同社の経営理念も、青田社長にとっては至極自然なことに違いない。

「こんなに変化が大きい時代に社長が何でも知っていると思うのは大きな間違い。現場の方がお客さまの望まれていること、変化をよく知っている」。

2020年春、コロナ下でマスクの供給がひっ迫した際に、同社が3Ⅾプリンタで社員用マスク製造したことは多くのメディアから注目された。この取り組みについても、「社長決裁を出したかどうかも記憶が薄い」と話す。決裁を待っている間にも情勢は刻一刻と変化していってしまうからだ。「コロナ」という、思いもかけない事態にも、「大方のことは現場で決めてもらう」という方針が功を奏したのではないか。



「静岡県民の健康寿命が伸びたのは杏林堂薬局があったから」が理想の姿



社員の自主性を重んじる青田社長だが、「これだけは社員に求める」ということがある。

それが“Something New(新しい何か)”だ。

「どんな小さなことでもいいのです。去年とは違うこと、これまでにない取り組みを行うように、社員には話しています。この変化の大きい時代に、“Something New”がなければ退化に等しい。現場起点の変化を期待しています」


杏林堂薬局が掲げる「元気ときれいの創造企業」のビジョンを基本に、「食」や「スポーツ」までを含めた幅広い領域を視野に、何が求められているのかを社員自ら考え、実行することを推奨する。そのため、失敗を咎めるのではなく、チャレンジがないことの方を問題視する社風がある。

実際に、2020年にも新しい取り組みが始まっている。浜松市天竜区春野地区における「春野医療MaaSプロジェクト」。中山間地域で高齢者の通院や医師不足などの課題解決のため、モビリティと医療分野を連携させた実証実験だ。ソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社MONET Technologiesなど、複数の会社が参画するが、ここで杏林堂薬局は遠隔服薬指導と薬剤の配送などを担う。


「地域の健康を支援するために何ができるか。その挑戦を続けることで、いつか例えば“静岡県民の健康寿命が伸びたのは地域に杏林堂薬局があったからだね”と言っていただく姿になるのが理想ですね」と青田社長は語る。

今日も杏林堂薬局のどこかで挑戦が始まっている。





取材・文=菅原幸子(ドラビズon-line編集長)

撮影=井之口聡


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